次世代DXの設計図
-生成AIで切り開く経営革新-を書き終えて
近年、企業経営においてDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が強調される一方で、多くの企業ではデータ活用が進まず、真に「経営に資するDX」の実現に至っていないのが現状です。さらに、IT業界全体での人材不足が深刻化するなか、生成AIの登場により、従来のシステム開発や投資の手法ではDXの推進がますます困難になっています。
当社はこれまで、1冊目の『データドリブン経営の不都合な真実』で「経営に資するDX」の概念を提唱し、2冊目の『データドリブン経営実践バイブル』でその実践方法論を詳述してきました。そしてこの度、急速に変化する時代に対応し、深刻な人材不足のなかで企業が真にデータ分析と活用を実践し、「経営に資するDX」を実現するための「開発方法論」と「最新テクノロジー」に焦点を当てた「次世代DXの設計図 – 生成AIで切り拓く経営革新 -」が2025年7月に刊行いたしました。
本書は、「DXと生成AI、データ活用が未来を拓く」をテーマに、経営に資するDXを具体的に導入するための方法論を体系的にまとめた書籍であり、特に登場し始めた生成AIに新しい視点を加えています。
今回、本書の著者であるグランバレイ株式会社の鍜治川 修と佐藤 慶典の両名に、本書のテーマとなった経営に資するDXとERP、生成AIの現状と未来について語ってもらう。

グランバレイ株式会社 経営企画部 BI戦略教導グループ
シニアマネージャー
ERP/BIコンサルタントとして、27年の経験を持つ。大手コンサルティングファームにて、ERP導入や会計関連の業務コンサルティングに従事。その後、BIベンダーを経て、2012年にグランバレイに入社。数多くのBI製品の導入やDX関連のプロジェクトを主導。現在は、大手企業向けにBI/DWH導入の構想策定や要件定義の支援を実施するとともに、データ活用を指南する「BI戦略教導」の一環として、各種導入方法論の策定やその普及活動に力を注いでいる。著書に、『データドリブン経営の不都合な真実』、『データドリブン経営実践バイブル』(東洋経済新報社)がある。

グランバレイ株式会社 経営企画部 BI戦略教導グループ
マネージャー
前職のSIer時代からグランバレイ入社後の現在に至るまで一貫して20年以上にわたりSAP導入プロジェクトに従事。グランバレイ入社後はコンサルタントとしてERP導入とBI導入の両視点から、データ活用がしやすい基幹系システム導入を実施し、過去の導入プロジェクト事例や現在の状況を組み合わせた、最適なERP/BI導入プロジェクトを推進する。
書籍に込めた想い:
最新のDXと生成AIの展望
ーーー 本書は3冊目の書籍となりますが、今回はどのような進化や新しい視点を加えましたか?
鍜治川 このたび出版した新刊は、前作の続きとしてDXを具体的に導入していくための方法論を体系的にまとめた一冊です。特に新しい視点として、当時台頭し始めた生成AIについて言及しました。
執筆から1年が経ち、生成AIの進化は目覚ましく、今読み返すと古い情報に基づいている部分があることは否めません。その点はあらかじめご了承ください。
しかし、本書の核となる部分、例えばDXの開発方法論やERPの「Fit to Standard」といった内容は、生成AIの有無にかかわらず普遍的なものです。AIが業務に組み込まれたとしても、これらの上流工程や開発方法論の重要性は変わりません。読者の皆様が、本書をDX推進の羅針盤として十分に活用できる内容になっていると確信しています。
生成AIがもたらすビジネスの未来:
ホワイトカラーの仕事はどう変わるか
ーーー 生成AIの登場が「時代の転換点」と表現されていますが、企業経営において具体的にどのようなインパクトをもたらすと考えていますか?
鍜治川 これはあくまでも私の個人的な見解ですが、十年後を予測した時にホワイトカラーの99%は、もうAIに仕事を奪われるのではないかと考えています。
特に中間層から下位の層、つまりほぼすべての人が影響を受けるという見解には、私も同意です。生成AIは単なる業務効率化ツールではなく、企業のあり方そのものを変えるほどの大きなパラダイムシフトを引き起こす可能性を秘めています。
この変化をただの脅威と捉えるか、あるいは新たなビジネスチャンスとして捉えるか。その認識が、今後の企業経営を左右すると言えるでしょう。
生成AIが企業にもたらす唯一無二のメリット
ーーー AIの利活用が必須と語られています。これらが企業にもたらすメリットとデメリットは何でしょうか?
鍜治川 企業は利益の最大化を追求する存在です。この資本主義社会において、企業活動の目的は、株主価値の創出、つまり利益をいかに極大化できるかに集約されます。
生成AIの登場は、この目的達成において「メリットしかない」と言っても過言ではありません。AIが企業の利益を直接的に減らすことはなく、むしろ競争優位性を確立するための必須ツールとなります。
もちろん、AIを活用しない企業は市場から淘汰される可能性が高まりますが、同じ土俵に立つ限り、生成AIの導入は企業にとって大きなベネフィットをもたらします。企業活動における最大のコストである人件費を最適化できることは、極めて大きな利点です。AIによって不要となる業務があるからこそ、企業はより効率的で収益性の高い構造へと転換できます。このパラダイムシフトをいかに迅速に取り入れるかが、今後の企業経営を左右する鍵となるでしょう。
AI時代に問われる「人間の価値」:
淘汰されるか、進化するのか
ーーー 本書のタイトルを生成AIが提案し採用したエピソードが印象的でした。今後生成AIの業務活用をどのように評価していますか?
鍜治川 生成AIの活用は、もはや待ったなしの状況です。すでにアメリカでは、AIの活用による人員削減が始まっています。ジョブベースで雇用が成り立つ米国では、AIが仕事を代替することで職そのものがなくなり、人員削減が加速しています。
日本の雇用慣行は異なるため、すぐに人員削減が進むことはないかもしれませんが、この変化を軽視してはいけません。日本はDXにおいて世界から周回遅れと言われていますが、生成AIにおいても同様の状況に陥る可能性があります。
AIが代替できない「人間の優位性」
鍜治川 私自身、今回の執筆では生成AIをタイトル案の検討に活用しました。しかし、原稿は私自身の言葉で書き上げています。近い将来、AIに要点を伝えれば書籍を執筆できる時代が来るでしょう。これは、人間が持つノウハウや知見が、もはや個人の「頭の中」に留めておく必要がなくなることを意味します。
では、人間は価値を失うのでしょうか?答えは「ノー」です。
AIは、既存のデータを基に推論や穴埋めを得意としますが、ゼロから新しいものを創出することはできません。例えば、新しい開発方法論を生み出すことは、今後10年経ってもAIには難しいでしょう。なぜなら、それは過去のデータの延長線上にはない、革新的なアイデアだからです。ここに、私たち「人間」の存在価値があります。既存の枠組みを超えた、全く新しい価値を創造する力。これこそが、AI時代における人間の最大の武器であり、淘汰されないための優位性です。
なぜ企業はデータ活用に踏み出せないのか
ーーー 「経営に資するDX」を実現する上で、データ活用が重要だと強調されています。データ活用が進まない企業が陥りがちな「こと」は何でしょうか?
鍜治川 データ活用が進まない企業が陥りがちなのは、「すべてが人依存」という状況だからです。重要な情報やノウハウが、データとしてではなく個人の頭の中に蓄積されている。業務は特定の担当者の経験と勘に頼って進められ、「これはあの人しか知らない」「あの人しかできない」といった属人化が進んでしまうのです。
この状態では、データを活用して業務を効率化したり、経営判断に役立てたりする以前に、そもそも分析できるデータが存在しません。属人化は一見、業務を円滑に進めているように見えますが、実は企業の成長を阻害する大きな壁です。この状況から脱却し、データを組織の共通資産として活用することが、今後の競争を勝ち抜くための第一歩となるでしょう。
「変わらないこと」への固執が成長を阻害する
佐藤 ERP導入においても同様です。多くの企業が直面するのが「既存のやり方をそのまま続けること」への固執。例えば、SAPのような新しいシステムに置き換える際、既存の業務プロセスを無理やりそのまま移植しようとするケースが散見されます。なぜ変える必要があるのか、という根本的な問いが抜け落ちたまま、慣れ親しんだやり方を守ろうとします。
この思考は、企業が新しいテクノロジーを取り入れる上で大きな足かせとなります。過去のやり方にこだわり続ける限り、DXやAI活用といった未来の成長機会を逃してしまうのです。
新しいテクノロジーを導入する際は、単なるツールを入れ替えるだけでなく、業務プロセスそのものを見直し、変革していくという意識が不可欠です。このマインドセットの変革こそが、企業の未来を左右すると言えるでしょう。
当社独自の「DX開発方法論」:
ハイブリッド型アプローチの優位性
ーーー 1章で紹介されている「DX開発方法論」とはどのようなものですか?その特徴や従来の開発方法との違いを教えてください。
鍜治川 当社はこれまでの豊富なDXプロジェクト実績から、効率的かつ効果的なDX導入を実現するための「DX開発方法論」を独自に開発しました。
この方法論の最大の特徴は、従来のウォーターフォール型開発に代わる、「ハイブリッド型アプローチ」にあります。多くの企業やSIerがウォーターフォール方式でDXを進める中、私たちはウォーターフォールとアジャイル開発を組み合わせたハイブリッド方式を採用しています。このアプローチにより、DXプロジェクト全体を管理するウォーターフォール方式の堅牢さと、変化に柔軟に対応できるアジャイル開発の機動性を両立させることが可能になります。これにより、不確実性の高いDXプロジェクトを成功へと導くことができます。
実践から生まれた「DX開発方法論」
ーーー アジャイル開発とウォーターフォール開発の課題をどのように捉え、それらを克服する「DX開発方法論」をどのように構築されたのですか?
鍜治川 当社独自の「DX開発方法論」は、理論だけで構築されたものではありません。これまでに数多くのDXプロジェクトを実際に手掛ける中で、最も効果的な進め方を試行錯誤しながら見つけ出し、その知見を体系的にまとめたものです。この方法論は、机上の空論ではなく、現場のリアルな課題を解決するために生み出された、まさに「実践知の集大成」です。これにより、お客様は最短ルートでDXを成功へと導くことができるのです。
「Fit to Standard」が
クラウドERPの真価を引き出す
ーーー 3章に 「2025年問題」を取り上げ、ERPの「Fit to Standard」への転換を提唱しています。この転換が企業にもたらす具体的なメリットは何でしょうか?
鍜治川 昨今のERPは、クラウドでの提供が主流です。クラウドの最大の利点は、ベンダーが頻繁に機能改良や追加を行い、ユーザーが常に最新の機能を利用できる点にあります。しかし、この恩恵が受けられない企業も少なくありません。その原因は「アドオン(独自機能の追加)」です。
アドオンを構築すると、ベンダーが提供する新機能が、自社の独自機能にどのような影響を与えるかを常に調査・検証する必要が出てきます。これでは、せっかくクラウドに移行しても、オンプレミスと変わらない運用負荷を抱えることになります。
今後、各ベンダーはERPに生成AIの機能を積極的に取り込んでいくでしょう。アドオンが多いシステムでは、これらの最新機能、特にAIを活用すること自体を事実上拒否することと同義です。
クラウドサービスを利用する際は、「標準機能の範囲内でシステムを運用する」という考え方が不可欠です。これを実現するためには、自社の業務プロセスを標準機能に合わせる「Fit to Standard」への転換が求められます。これが、クラウドERPの真価を最大限に引き出す唯一の方法なのです。
「Fit to Standard」がもたらす、
未来への競争優位性
佐藤 「Fit to Standard」の背景には、SAP社が提唱する「コアクリーン」という考え方があります。これは、ERPの中核となるデータ構造を標準のまま保つことで、システムの柔軟性と進化性を維持するというものです。この原則に従うことで、SAP社が提供する最新の分析レポートをすぐに活用できたり、今後実装される生成AI機能が自動で分析や提案を行ったりといった恩恵を享受できます。
しかし、ここにアドオン(独自機能の追加)が入ると、こうしたメリットは失われてしまいます。独自のアドオンに固執すれば、データ構造が複雑になり、最新機能の利用や生成AIによる効率化の恩恵をまったく受けられなくなるのです。過去には、アドオンが一時的に業務効率を上げることもあったかもしれません。しかし、生成AIが登場した今、その考え方はもはや通用しません。生成AIは、既存の業務効率をはるかに上回るレベルで、業務全体の最適化を可能にします。この大きな変化の波に乗るためには、個別のアドオンにこだわるのではなく、「Fit to Standard」へと転換することが不可欠です。
この転換ができない企業は、今後、競合他社との差が年々開いていくことになるでしょう。未来を見据えた経営判断として、「Fit to Standard」の推進は避けて通れない道なのです。
スクラッチ開発は時代遅れ?
パッケージ利用が主流の時代へ
ーーー 今、パッケージもクラウド化されるなど、クラウドが主流になりつつあります。クラウドを使うことでの注意点はありますか?
鍜治川 企業がゼロからシステムを構築するスクラッチ開発は、もはや過去の遺物となりつつあります。もちろん、特定のニッチな業務やレガシーシステムにはまだ残っていますが、システム全体に占めるスクラッチ開発の割合は年々減少しています。ある大手企業では、所有する約1,000個のシステムのうち、スクラッチ開発によるものはごくわずかだという話もあります。これは、企業がパッケージソフトウェアの利用を前提とする時代になったことを示しています。
しかし、SaaS、PaaS、IaaSといった提供形態に関わらず、パッケージソフトウェアの標準機能から外れたカスタマイズは大きなリスクとなります。独自のアドオンを加えた途端、ベンダーからのバージョンアップや新機能の恩恵を受けられなくなります。人間側の都合で安易にカスタマイズすれば、その時点でシステムの進化は止まってしまうのです。現代のビジネス環境においては、標準機能の活用を前提としたシステム戦略こそが、競争優位性を維持する鍵となります。
「分析」まで行うAIがBIツールの概念を覆す
ーーー 4章ではAIの業務活用について解説されていますが、生成AIをデータ分析と活用する際の具体的な事例や効果について教えてください。
鍜治川 本書では触れられませんでしたが、最新の生成AIやAIエージェントは、すでにデータ分析の領域で驚くべき進化を遂げています。既存のBIツール(TableauやPower BIなど)は、データの「可視化」は得意ですが、「分析」はしてくれません。ユーザーはレポートを見て分析し、その傾向や課題を自ら読み取る必要があります。
しかし、最新のAIは違います。AIが自らデータの傾向を分析し、課題まで提示してくれるのです。例えば、データセットをAIに渡すだけで、「このようなデータであれば、このような分析をしてみてはいかがですか?」と提案してくるレベルに達しています。この提案に対して、私たちが「それでお願いします」と答えれば、AIは分析を実行し、その結果を詳しく説明する文章(テキスト)と、棒グラフや折れ線グラフといった視覚的な表現で返してくれます。
この技術は、いずれBIベンダーのBIツールにも組み込まれるでしょう。そうなれば、真の意味での「セルフサービスBI」が実現します。データさえ投入すれば、あとはすべてAIが分析を行い、エンドユーザーはレポートを読むだけで済むようになるのです。これは決して遠い未来の話ではありません。来年か再来年には、このレベルのサービスが当たり前になるでしょう。そして、これは私たちの仕事のあり方を根本から変える、大きなインパクトをビジネス界にもたらすはずです。
DX開発方法論と生成AIの融合:
加速するアジャイル開発
ーーー 人材不足が常態化するIT業界において、DXを迅速に進めるための開発方法論やテクノロジー活用のポイントは何ですか?
鍜治川 今回ご紹介する「DX開発方法論」は、生成AIの登場によってその価値が失われるどころか、むしろその真価を最大限に発揮できるようになりました。
私たちが提唱する「ハイブリッド型アプローチ」では、ウォーターフォールで進める領域とアジャイルで進める領域に分けています。このうち、アジャイルの領域は、生成AIによって劇的に効率が向上しています。DX開発方法論に沿って進めたタスクを生成AIに引き継ぐことで、開発を加速度的に進められるのです。ウォーターフォール領域はまだ自動化が難しい段階ですが、これも時間の問題でしょう。DX開発方法論は、生成AIの進化に合わせて常にアップデートされ、その優位性を保ち続けます。
AI時代に求められる人材像:淘汰されるか、仕事を奪うか
また、現在多くの企業が人材不足に直面しています。この状況を打破する鍵は、「いかに生成AIを使いこなせるか」にあります。NVIDIA社のCEOが「AIが仕事を奪うのではない。AIを使いこなす人が、あなたの仕事を奪うのだ」と語ったように、AIを使いこなす側になるか、それともAIによって仕事を奪われる側になるかで、ホワイトカラーとしての未来は大きく変わります。
生成AIを使う側の人材は、仕事を奪われることはありません。逆に、生成AIに頼りきりになったり、使いこなせない人材は、いずれ淘汰されていくでしょう。私たちは、AIの上位に立つ人材として、AIをツールとして使いこなし、新たな価値を創造していく必要があります。
AI時代のSAPコンサルタントに求められるスキルセットとは
佐藤 執筆を開始した1年前には想像もできませんでしたが、今やSAP社をはじめとする主要なソフトウェアベンダーは、新しい発表のほとんどがAI関連のものになっています。導入、機能、管理、テストに至るまで、あらゆるフェーズでAIの活用が前提となっているのです。これは、ベンダー側が「AIを徹底的に活用し尽くすことこそが、パッケージとしての優位性を確立する鍵である」と認識しているからです。
この変化に対応するために、私たちSAPコンサルタントの意識も変わらなければなりません。
これまで「私がすべてのパラメーターを知っているから、ユーザーに合わせて設定できる」というように、各個人の知識やスキルに依存するコンサルタントが評価される時代でした。しかし、これからは「いかにAIを使いこなし、効率的に導入を進められるか」という視点が必要になるでしょう。
AIを活用して質の高いサービスを提供できるコンサルタントでなければ、生き残ることは難しいでしょう。
AI時代に求められる人材像「業務+IT+AI+課題解決能力」
これからの時代に求められるのは、「業務+IT+AI+課題解決能力」を兼ね備えた人材です。
単に業務やITの知識があるだけでなく、AIを駆使してクライアントの課題を解決に導くことができるコンサルタントが、これからのビジネスを牽引していくことになります。
DXの専門家が語る、共著という選択
ーーー 本書は鍜治川修氏、佐藤慶典氏、塩見哲平氏の3名が分担執筆されています。各章の専門家が異なる視点を提供する意図や効果について教えてください。
鍜治川 私はこれまで一冊目、二冊目と執筆してきた通り、DXの専門家であると自負しています。しかし、DXをより深く掘り下げるには、私一人ではカバーしきれない領域があると感じていました。
DXの根幹となるERP、そしてDXを加速させる上で不可欠な生成AI。この二つの領域に関しては、私も常に最新の知見を追い求めていますが、当社エキスパートの二人に執筆をお願いしました。
本書は、DXの専門家である私と、ERPおよび生成AIの深い知見を持つ共同執筆者によって、それぞれの専門性が融合した一冊です。この共著という形で、読者の皆様に多角的な視点からDXの本質をお伝えできると確信しています。
生成AIがDXの真価を引き出す、
データ活用の重要性
ーーー 本書を通じて、経営層やDX推進のキーパーソンに特に伝えたいメッセージは何ですか?
鍜治川 今回の書籍を通して私たちが最も伝えたいメッセージは、「データ活用の重要性が、かつてないほど高まっている」ということです。
生成AIの登場は、DXを本来の定義である「ビジネスモデルそのものの変革や新たな価値の創出」へと押し上げる可能性を秘めています。これまで、私たちはデータをいかに活用するかという狭義のDXに注力してきましたが、生成AIによってその最終目標が現実のものとなりました。
しかし、生成AIは、良質なデータがなければ何も生み出せません。企業内のあらゆる資産(ノウハウ、人的資本、業務プロセスなど)をいかにデータ化し、生成AIに学習させるかが、今後の企業の命運を握ります。生成AIと企業を一体化させることができた企業は生き残り、それができなかった企業は淘汰されるでしょう。
経営者の皆様は、この大変革期に、自社のデータをどのように活用し、競争優位性を築いていくかという問いに、死に物狂いで向き合う必要があります。その理由はこの取り組みこそが、企業の未来を左右するからです。
生成AI活用に躊躇する時間はない
佐藤 生成AIの活用は、もはや大げさでもなんでもなく、企業の存続を左右する最重要課題です。生成AIを活用するために必要なERPの「Fit to Standard」や業務の標準化といった取り組みは、もはや「できない」と言っている場合ではありません。これらの変革を躊躇している猶予はなく、迅速な対応が不可欠です。
今、この変化に乗り遅れれば、数年後には企業の存続そのものが危ぶまれる事態に陥るでしょう。
この大きな時代の流れを理解し、一刻も早く生成AIをビジネスの武器として使いこなすための体制を築いてほしいと思います。
AIユニコーン企業が示す未来:
競争優位性は「人」から「データ」へ
ーーー 今後、生成AIやDXの進化がさらに加速する中で、企業がデータドリブン経営を実現するために最も優先すべきことは何だと考えていますか?
鍜治川 これまでの企業の競争優位性は、優れた「人」の力に大きく依存していました。しかし、その構図は今、根本から覆されようとしています。従業員数十人規模で数十億円、数百億円の売上を叩き出すAIユニコーン企業が次々と現れています。これらの企業は、AIを最大限に活用することで、従来の企業が何百人もの従業員を投入して行っていたビジネスを、ごく少数の人間で実現しています。
こうしたAIユニコーン企業に、既存のビジネスモデルを奪われる時代は、もはや目前に迫っています。
この激しい競争を生き抜くためには「自社の競争優位性は何か」「それらを生成AIに学習させてさらにブーストすることができるか」という問いに向き合う必要があります。
企業の資産は「人」から「データ」へ
今後、企業が生き残る鍵は、「どれだけ自社のデータをAIに学習させられるか」にかかっています。
現在、多くの企業がデータ分析基盤を構築していますが、まだテーブルデータをそのままAIに投入しても分析できる段階ではないと考えています。しかし、これも時間の問題です。今後は、テーブル構造やデータの特性を自動で理解し、分析結果を導き出すAIが登場するでしょう。
さらに、日本企業が強みとしてきた「暗黙知」も、今やデジタル化・言語化され、AIに学習させるべき重要な資産です。これまでは口頭や「阿吽の呼吸」で伝承されてきた競争優位性を、今すぐデータ化し、AIの力で進化させていく必要があります。
これからの時代、企業にとって最も重要な資産は、もはや「人」ではありません。「情報」と「データ」こそが、企業の未来を左右するのです。
DXと生成AIの本質:すべては「データ」に集約される
DXも生成AIも、その本質は「データ」にあります。データをいかに収集し、整理し、活用するか。この取り組みこそが、企業経営の至上命題となります。これからの経営は、データドリブンであるべきです。 企業の競争優位性を高め、AI時代を生き抜くために、データという新たな資産に真剣に向き合うことが求められています。
DXとAI導入を成功に導く
グランバレイの強み
ーーー 最後に読者へメッセージをお願いします
鍜治川当社は、DX推進と生成AIの導入支援にいち早く着手し、多くの企業を支援してきました。私たちが提供する支援は、単なるツールの導入に留まりません。業務への具体的なAI活用から、AI時代の競争優位性を確立するためのDX推進まで、一貫したサービスを提供しています。
これまでに蓄積された豊富な知見とノウハウを活かし、お客様のビジネス変革を強力にサポートします。
DXやAIの導入に関して何かお困り事があれば、ぜひお気軽にご相談ください。皆様の課題解決に向け、最適なソリューションをご提案いたします。
書籍紹介

著者:グランバレイ株式会社 鍜治川 修, 佐藤 慶典, 塩見 哲平
発行:東洋経済新報社
本書は、SAP導入企業のデータ活用基盤構築を長年専門に行っているコンサルティング企業がDX・データドリブン経営のあるべき姿について語った『データドリブン経営の不都合な真実』『データドリブン経営実践のバイブル』の続編である。3冊目の本書では、生成AIがデータ×経営を取り巻く環境を劇的に変化させていく中で、企業が最先端技術にどのようにキャッチアップし、DX・データドリブン経営を実現させていくかを解説する超・実践書である。
「生成AIをどのように企業経営に適用すべきかわからない」
「社内のデータを一元化しようにも、レガシーシステムの刷新ができない」
データの活用に悩む経営者や管理職、プロジェクトの担当者全員が必見。データドリブン経営に携わるすべての人が手元に置いておきたい1冊だ。
目次:
発刊に向けて
プロローグ(はじめに)
第1章 「DX開発方法論」とは何か
第2章 DXの要件定義
第3章 ERP最適化方法論
第4章 AI動向最前線
東洋経済オンライン 、Amazon、および全国の書店で販売中



